シリア内戦は14年目に入り、未だ政府軍や反政府軍、ロシアやイラン、トルコ、イスラエルなどの関連国、各武装勢力による戦闘が続き、政治的混迷を極めています。人道危機は深刻化するばかりで、国民の70%が人道支援を必要とし、501万人以上が周辺国で、724万人以上が国内で避難民として生活しています。
弊会が2019年から活動を実施しているシリア北西部に位置するラッカ県は、内戦開始以降複数の武装勢力の占領下におかれてきました。現在もクルド系武装組織が統治する自治政府下にあり、日常的な戦闘は頻繁には発生していないものの、水や電気などのインフラが整備されていません。物価高騰に対して収入は上がらず、基本的生活を送ることが困難な状態が続いています。
ラッカ県は武装組織ISISの拠点にされたことから、2017年頃の軍事作戦の空爆や地雷、地上戦に巻き込まれ負傷した子ども達が多くいます。また物資不足や人材不足により、母親達は医療環境が整わないなかで出産せざるをえず、出生時の脳障害による後遺症から身体・発達障がいを負った子ども達もいます。
医療支援を含め、人道支援に関するニーズは現在も非常に高いままですが、内戦の長期化、他の国や地域における人道危機の増加、政治的複雑さ、資金不足などにより、ラッカ県における事業から撤退する支援団体が年々増加しています。医療支援は主に、大規模支援を行っている国際NGOにより実施されていますが、障がいや慢性疾患をもつ子どもへの支援は非常に限られています(確認できただけで3団体:聴覚障がいをもつ子どもへの教育支援、糖尿病をもつ子どもへの投薬、身体障がいをもつ子どもへの杖配布をそれぞれ実施)。
2024年5月現在、内戦の影響により障がいを負った子ども達へ義肢や理学療法を提供しているのは、ラッカ県だけでなくシリア北西部で弊会のみです。義肢・義手提供を待つ子ども達はラッカ県だけでも1,000名以上とされ、支援を求める当事者や家族の声が絶ちません。また身体障がいのほかに、知的障がいや自閉スペクトラム症といった発達障がいをもつ子ども達への発達支援を専門的に提供できる機関はほとんどありません。
保護者の方々からは、「活動をを続けて欲しい」、「より多くの子ども達に支援を届けてほしいが、少しずつでも活動が続いていることが希望になる」という声をいただいています。
2023年度も慢性疾患や障がいをもつ子ども達への医療支援を実施し、補装具(義肢、補聴器、眼鏡)や理学療法を提供しました。空爆や地雷により体の一部を失った15名に義肢を提供し、自立的に歩行できるよう練習しました。小児水頭症や新生児脳症などにより身体・発達障がいをもつ子ども達との理学療法では、姿勢の維持や座る/しゃがむ動きを練習したり、歩行器を使った歩行トレーニングを行いました。
子ども達への直接的なケアのほか、保護者の方々にも、子どものために家庭でできるストレッチを伝えました。日常生活における子どもの成長や発達について、専門家に相談できる機会がこの活動以外にはないため、保護者の方々も積極的に取り組んでいらっしゃいます。
人道危機においては、人々がもつ脆弱性が一層拡大するといわれています。障がいをもつ子ども達を支えるためには、活用できる資源を繋げる必要があります。医療・福祉・教育に関し、障がいをもつ子ども達に対してサポート提供が可能な、組織機関や専門家をリストアップし、同意を得られた機関や個人のサービスマッピングを作成しました。コミュニティ内に存在する社会的リソースについて、専門家や保護者間で共有することができました。しかし同時に、多くの支援機関が活動を終了し、障がいをもつ子ども達にとって、活用可能なサービスが極めて限られていることもわかりました。
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